米国通信


このページではJICAアメリカ合衆国事務所長・山本愛一郎氏の「アメリカ援助事情」を掲載していきます。


2008年9月12日 

アメリカ援助事情 第12号 「ハリケーンとアメリカ人」                                     

9月に入って、ギュスタフ、ハンナ、アイクと3人?のハリケーンが立て続けにルイジアナ州、フロリダ州、テキサス州などアメ  
リカ南部を襲った。 この模様をワシントンで見ていて2つのことを感じた。

ひとつは、アメリカ人の「逃げ足」の速さだ。

8月末にブッシュ大統領がルイジアナ州とテキサス州に早々と非常事態宣言を出すや否や、ハリケーン・ギュスタフの上陸が予想されたルイジアナ州 ニューオーリンズ市のナギン市長が全市民に強制退避勧告を出した。すると、人々はあっという間に避難を始めたのだ。テレビのニュースを見ていると高速道路は、家財道具やペットを載せた車の列で数珠繋ぎ、車のない人は政府が用意したバス、飛行機、列車で大移動をはじめた。

3年前のハリケーン・カタリーナの時には対応が後手に回って非難されたFEMA(連邦災害対策庁)も今回は周到な準備をしていたようで、囚人や介護施設の老人までも事前に避難させていた。ワシントンポスト紙によると約10万人が避難したようだが、たった数日間でこれだけの数の人間が大きな混乱もなく移動するアメリカ人の対応の早さにとエネルギーに感心した。さすがは、かつて幌馬車に家族をのせて大陸を横断した人々の末裔だ。

この対応の素早さのお陰で、カトリーナの時は1800人もの犠牲者が出たが、今回のギュスタフによる犠牲者は25人(9月8日現在)に留まった。

もう一つ気になったのは、アメリカ人の身勝手さだ。

実は今回の一連のハリケーンは何もアメリカだけを襲ったのではない。隣国のハイチやキューバなどにも大きな被害が出ている。豊かなアメリカにくらべるとこれらの国の防災施設や災害対応能力は劣る。ハリケーンによる堤防の決壊や河川の氾濫などでハイチではすでに250人以上の犠牲者が出ている。(8月7日現在)

これらの国の被害についてはアメリカ国内では当初はほとんど報道されなかった。日本やヨーロッパの方が頻繁に報道されていたようだ。したがってアメリカ国内は自国の対応ばかりに関心が集まり、これらの貧しい隣国を支援しようとする市民の動きはほとんど見られなかった。アメリカ政府の対応もお粗末だ。ハイチには約1100万円の支援を発表したのみで、キューバにいたっては、冷戦時代から続くキューバ制裁方針を変えず、キューバ政府がアメリカ政府の調査団を受け入れない限り本格的な援助は行わない方針だ。官民ともに隣国の災害には腰が重い。

一方、日本政府はJICAのマイアミ災害備蓄倉庫から、テント、毛布、発電機など3900万円相当の救援物資をすでにハイチに送っている。6月14日に発生し、各県で多くの 犠牲者を出した東北大地震の際、その対応に追われながらも、我々日本人は、中国四川大地震の救援を官民上げて行った。アメリカ人もこの助け合いの精神を見習ってほしい。



                                                 JICAアメリカ合衆国事務所長 山本愛一郎


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「アメリカ援助事情」は、筆者のアメリカでの体験とナマの情報をもとに書いてい ます。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載 される場合は、事前に御一報願います。
 

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