米国通信

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このページではJICAアメリカ合衆国事務所長・山本愛一郎氏の「アメリカ援助事情」を掲載していきます。


2008年10月27日 

アメリカ援助事情 第13号 「危機の連鎖―石油危機から食糧危機へ、そして金融危機から援助危機?」

この1年くらいの間、世界には次から次へと危機が訪れている。しかもそれぞれの危機が 「見事に」連鎖している。  

今年の夏、ハイチなど30カ国で高騰する食糧価格に抗議する民衆暴動が発生した。

石油価格の高騰で食料品が値上りし、都市の貧困層を直撃した。供給サイドの農民も肥料価格の高騰などにより思うように収穫を増やせないことが価格の安定化をもたらさない原因だ。世界銀行の試算では、現在の食糧価格は2005年水準からほぼ2倍になっており、1−2年はこの高値が続くと見られている。  

そうこうしているうちに大統領選挙で沸くアメリカではサブプライムローン(低所得者向けの住宅ローン)の支払い不能者が増え始め、差し押さえられた住宅が連日テレビで放映され始めた。しかもそのローン借入人の負債を証券化して世界中の投資家に販売していた証券会社までが破綻した。アメリカ発の金融危機が世界を震撼させたのだ。  

10月12日ワシントンで開催されたIMF世界銀行の年次総会では、このような危機の連鎖から先進国の経済状況が悪化し、発展途上国へ援助が減らされるのではないかという危機(aid crisis)を懸念する加盟国代表の発言が相次いだ。世界銀行も急遽、食糧価格高騰に対する支援策として12億ドル(約1200億円)の融資制度を新設し、日本政府も 世界銀行を通じて食糧問題や気候変動対策に5年間で150億円の資金援助を約束したが、 その他の援助機関の動向が注目されている。9・11事件以降テロ対策の名目でODAを倍増したアメリカも、オバマ大統領候補でさえ雇用、健康保険、教育など国内対策が優先で援助問題は先送りとの見方が有力だ。  

このような危機の連鎖の中で、一人だけ援助増を叫ぶ有名人を発見した。彼の名はボブ・ ゲルドフ、80年代の飢餓撲滅キャンペーンで一世を風靡したアイルランド人ロック歌手だ。 10月21日ホワイトハウス主催の、ブッシュ大統領も出席した「開発サミット」に招かれた筆者は そこでボブの歌声でなく、話す声をはじめて聞いた。彼は厳しい顔で、「一連の危機の中で世界の貧しい人は益々増えている。先進国はODAを少なくともGNI(国民総所得)比0.8パーセントに引き上げるべきだ。」と強く訴えていた。

(筆者註:ODAの対GNI比は各国のODAの負担状況を表す指標として使われており、2007年実績で、日本は0.17%、アメリカは、0.16%)                                                     

JICAアメリカ合衆国事務所長 山本愛一郎

 



(写真提供:山本愛一郎氏)

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「アメリカ援助事情」は、筆者のアメリカでの体験とナマの情報をもとに書いてい ます。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載 される場合は、事前に御一報願います。
 

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