米国通信


このページではJICAアメリカ合衆国事務所長・山本愛一郎氏の「アメリカ援助事情」を掲載していきます。
 

2009年1月9日 

アメリカ援助事情 第14号 「国連南南協力の日」に考える                                              

昨年の12月、ニューヨークの国連本部で、恒例の「南南協力の日記念イベント」が開催され、筆者も共同議長として参加させてもらった。「南南協力」とは、南の発展途上国の中でも比較的進んでいる国が、近隣の国などを援助したり、人材育成をすることをいう。通常、援助は北の先進国が南の発展途上国に対して行う「南北協力」の形を取ることから、このような協力方式を 「南南協力」と呼んでいる。

「南南協力」の歴史は長いが、実は最初に形を作ったのは日本で、1974年にJICAがタイの養蚕センターでラオスの養蚕技術者向けの訓練コースを始めたのがきっかけだ。その後も日本が仲介して、アジア、南米、アフリカ各地で同様の方式の援助が拡大した。アジアでは、タイ、南米では、メキシコ、ブラジル、アフリカではエジプト、チュニジアなどがリソース提供国として、日本の支援を受けながら近隣の発展途上国への援助に積極的に乗り出している。 

このように日本が長い間地道に支援してきた「南南協力」だが、これまで、国際機関や他の援助国はあまり関心を示さなかった。やはり先進国が直接発展途上国に援助するほうが馴染むのだろう。イギリスなどは、分割統治の手法を貫いてきた植民地運営の経験もあり、発展途上国同士が協力し合う方式には馴染め なかったようだ。敗戦によって国土が破壊され、自らも発展途上国として国を再建した日本人には、発展途上国同士が助け合うのを先進国が手助けすることに親近感を覚えるところがある。親近感だけではない。実際に「南南協力」には技術的なメリットが多い。たとえば、疾病対策、家畜衛星、農業、防災などの分野では、同じような課題に取り組む地域の国同士が協力する方が効果が上がる場合もある。また南米では、スペイン語という共通の言語でコミュニケーションが取れるというメリットもある。   

国連がいち早くその有用性に気付き、2003年に、12月19日を「南南協力の日」とすることを決定し、以降毎年この日に「南南協力」に関するイベントを開催、関係者への啓発を行うとともに、国際社会へアピールしている。世界銀行も昨年「南南協力のための基金」を立ち上げ、インドなどアジアの国がアフリカ諸国を支援するための資金協力に乗り出した。パリに本部を置く、経済開発協力機構(OECD)も「南南協力」によって開発援助の効果が高まることに気付き、これまでの南北方式の援助を補完するものとして注目しはじめた。 

このように日本が育てた開発援助の(当時では)ユニークな方式であった「南南協力」が、今では新しい援助の潮流の一つになりつつある。しかし、このことは、開発協力は南の国同士に任せて先進国は手を引くという意味ではない。さまざまな開発課題の解決には先進国の持つ技術やノウハウをベースにする必要もあるし、また、発展途上国の中にどのようなノウハウがあって、それをどの国が必要としているかという情報は長年援助をやってきた先進国側にあることも多い。したがって、先進国は「南南協力」の仲立ちをする必要があるし、また、南の国同士が協力するための資金が不足する場合は、先進国が負担するということも必要になる。これを今JICAでは、北の先進国、南のリソース提供国、そして南の受益国の3者が協力してよりよい援助を行うという意味をこめて「三角協力」と呼んでいる。  

冒頭紹介した国連イベント「南南協力の質的向上のためのワークショップ」は、国連開発計画(UNDP)と日本政府共催で行われ、ケニア、エジプト、タイ、アルゼンチン、ブラジルなど南南協力のリソース提供国になっている国、受益国、世銀など国際機関の代表、15カ国65名が集まりそれぞれの経験と教訓を持ち寄った。参加者の多くが日本の「南南協力」における役割を評価してくれ、今後も日本が提唱する「三角協力」モデルが有効なことが計らずも証明されることになった。  

会議が終わって国連本部のビルを出ると、もうニューヨークの街は暗くなっていた。翌日は大雪の予報だ。耳がちぎれそうに寒い。でも金融危機とはいえ、アメリカ人は元気だ。街はクリスマスショッピング客で賑わっていた。

JICAアメリカ合衆国事務所長 山本愛一郎

 



南南協力の質的向上のためのワークショップ

(撮影:高橋暁人氏

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「アメリカ援助事情」は、筆者のアメリカでの体験とナマの情報をもとに書いてい ます。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載 される場合は、事前に御一報願います。
 

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