米国通信


このページではJICAアメリカ合衆国事務所長・山本愛一郎氏の「アメリカ援助事情」を掲載していきます。
 

2009年4月2日 

アメリカ援助事情 第16号 「どうなるオバマ政権の援助政策」

ブッシュ政権のレガシー
 オバマ政権が誕生して、70日が経過したが、アメリカの新らしいODA政策がまだ見えて来ない。米ODA改革の必要性は、共和党、民主党双方から長い間叫ばれている。
 米議会の要請により設立されたHELP委員会(Helping to Enhance the Livelihood of People)が、2007年12月米国の援助改革に関する報告書を発表した。同報告書の骨子は、米国の援助機関の再編であるが、@イギリスのDFIDのような閣僚レベルの援助担当官庁を新たに設立し、多岐にわたる米国の援助を一元化する。A国務省の機能を強化し、同省のもの元に多岐にわたる米国の援助を一元化する。の2案併記の形となっている。結局委員の中で意見が分かれ結論がでなかったのである。
 共和党、民主党を問わず、アメリカの援助は伝統的に国益重視である。ブッシュ政権では、特に9。11以降、テロからアメリカ本土を守るためとの大義のもとに貧困対策や復興支援などのODAを飛躍的に増大させた。(DAC統計によると、アメリカの年間ODAは、2001年の99.55億ドルから2005年には2.8倍の279.65億ドルに増加)この考え方に対して、民主党支持者が多いアメリカのNGOには抵抗があったもの、「結果としてODAが増え、自分たちの取り分が増えればよい」(ランカスター ジョージタウン大学教授)との考えで、あまり大きな批判はしなかった。

米ODAに内在する3つの問題
 しかし、ブッシュ政権後期になって、いくつかの問題が露呈してきた。一つは外交と援助の結びつきを強化するため、国務省の中に「外国援助部」が新設され、援助政策の企画立案、予算要求と配分など従来USAIDが担当してきた仕事がそこに移管されたことだ。これは「Fプロセス」といわれUSAIDのプロパー職員の士気を多いに低下させ、自らを「ヘッドレス・エージェンシー」(手足だけの組織)と自嘲気味に言う職員もいるほどだ。またUSAIDは、恒常的に人員削減を受け、ベトナム戦争時は15000人いた職員も今では2400人だ。(2008年度補正予算でようやく300人の増員が認められたが。)
 このようなUSAIDの弱体化は、現場でのアメリカの援助活動のインパクトを弱める結果となっていることは否めない。
 二つめの問題は、アメリカの援助予算が増大するにつれ、USAID以外に新しい援助組織が誕生し、その間の調整が困難になっていることだ。現在、米連邦政府には、ODAを執行する機関が20以上もあり、その中でもブッシュ大統領の肝いりで2004年に設立されたMCC(ミレニアム挑戦公社)やPEPFAR(大統領緊急エイズ対策プログラム)は、巨額な予算(MCCは、年間15億ドル規模、PEPFARは5年間で480億ドル)を執行し、しかも実施段階で多くの部分がUSAIDに委託されるため、USAIDの現場では人員が減る中、予算執行量が増え、悲鳴をあげているところもあるそうだ。そればかりか、PEPFARは、エイズ対策に特化した予算のため、アフリカなどでは国別援助予算におけるエイズの割合が突出して、国のニーズにあったバランスのとれた援助計画が作れないという弊害も起きている。例えばケニアではUSAIDが執行する予算の86パーセント、南アフリカでは97パーセント、ベトナムでは84パーセントがエイズ対策費である。(いずれも2008年度実績値)しかもアメリカのエイズ対策は、それなりの成果はあげているものの、予算の半分以上がエイズ治療薬の供与であることから、持続性の観点から、治療より予防や保健システムの強化に重点を置くべきとの批判も出ている。
 さらに三つ目の問題は、ブッシュ政権時にテロ対策が目玉となった結果、イラク、アフガニスタンへの支出が増大し、しかも復興支援にかかるこれらの予算は、USAID経由ではなく国防省直轄となり、これがアメリカの外国援助予算の20パーセントを占めている。これは、「援助の軍事化」(militarization of aid)と呼ばれ問題となっている。(詳しくは、アメリカ援助事情第15号を参照願います。)
 USAIDなどアメリカの援助関係者は、これらの問題をオバマ政権が改善してくれることを望んでいる。オバマ政権にアメリカの援助改革を一生懸命働きかけている人がいる。「アメリカ進歩センター」(Center for American Progress)のゲイル・スミス研究員だ。前出のHELP委員会の委員でもあった彼女は、開発援助機関独立論者だ。昨年6月に筆者が面談した時は、「わたしはオバマ支持よ。政権に入ってアメリカの援助体制を変えたいわ。」と力強く言っていたことを思い出す。彼女は、今オバマ大統領に指名され、国家経済委員会の開発問題担当顧問としてホワイトハウスに勤務中だ。

アメリカの安全保障と援助政策
 アメリカには、外交(Diplomacy)、防衛(Defense)、開発(Development)の3Dという言葉があるが、ブッシュ政権時代の優先順位は、防衛、外交、開発の順だったと言われている。前出のスマートパワーの考え方でいけば、オバマ政権では、外交、開発、防衛は、同列となるだろう。しかし、アメリカの開発援助関係者の中には、イギリスのDFID並みに、開発を外交から独立させ、開発を必ずしも短期的な外交の手段ではなく、貧困削減、MDGの達成など長期の国際益のために使うべきだと主張する人も多くいて、実際に、前出のゲイル・スミス女史や「歴史の終わり」で有名なフランシス・フクヤマ氏ら16名の有識者が昨年6月に発表した新政権への提案書「New Day New Way」には、アメリカの援助政策は貧困削減などグローバルな開発を国益とし、それを実現するための閣僚レベルの独立した援助機関「Department for Global Development」を設立すべしと書いてある。しかし、この主張は、ヒラリー・クリントンという大物国務長官が就任した状況ではおそらく実現しないと思われる。同長官は、1月23日USAID職員に訓示した際、「外交と開発はアメリカの国家安全保障をさらに推進するためのイコール・パートナーだ。」と明言している。これは、アメリカの開発援助が、国家安全保障の枠組みで推進されることはオバマ政権でも変化はないというメッセージだ。                  

                                                                       以上

JICAアメリカ合衆国事務所長 山本愛一郎

 

写真:「ポトマック川の桜並木」
(提供:山本愛一郎氏)


(*本稿の一部は、国際開発ジャーナル4月号にも掲載されています)

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「アメリカ援助事情」は、筆者のアメリカでの体験とナマの情報をもとに書いてい ます。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載 される場合は、事前に御一報願います。

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