2010年1月20日
アメリカ援助事情第21号「今年はアジアに向くアメリカの外交・援助政策」
オバマ大統領が就任して、今日で丸1年が過ぎた。「白人のアメリカでもない、黒人のアメリカでもない、あるのはアメリカ合衆国のみだ。」人種の壁を越えたアメリカの再生をスローガンに80パーセント近い支持率でホワイトハウスに入ったオバマ大統領も、一向に良くならない景気に対する国民のいらだち、さらにアフガニスタンでの厭戦ムードの高まり、健康保険改革に対する批判などの中で、支持率が50パーセントを切るまで低下し始めた。 外交分野だけ見ても、ブッシュ時代の一国主義を見事に転換し、まず、人権問題となっていたグアンタナモ収容所の閉鎖やイラクからの撤退に道筋をつけ、イスラムは敵ではないことを表明し、ロシアとの関係を改善し、中国を戦略的パートナーと位置づけ、イランや南米にも対話と協力のメッセージを送った。また、核兵器の廃絶という歴代アメリカ大統領が口にしなかったことを表明した。どれをとってもノーベル平和賞に値すると思う。カーター政権時の国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたブレジンスキー氏も「フォーリン・アフェアーズ」の今月号でオバマ大統領の大胆な外交政策を絶賛している。 開発の分野でも、オバマ大統領は、文民による開発をアメリカ外交の重要な柱と位置づけ、選挙公約でもODAの倍増を掲げ、2010年度対外援助予算も、前年度比4.5パーセント減の509億ドル(4兆5800億円)とするなど、景気の低迷や財政赤字など一向に気にせず、着実に公約実現に向かってがんばっている。 そんなオバマ大統領の今年の外交の関心はどこへ向くのであろうか。1月5日当地の戦略国際問題研究所(CSIS)が会員向けに、カート・キャンベル国務次官補(アジア・太平洋担当)を招いて話を聞く機会を設けた。同氏は、オバマ政権の外交戦略上の重点国は、イラクとアフガニスタン、パキスタンであることには変わりはないものの、大統領自身の関心はメコン地域やミャンマーなど東アジアに向いているという。これらの地域はまさに、ブッシュ政権がイラクにかかりっきりになっている間に、中国が着々とプレゼンスを強めてきた地域である。 1月12日、ハワイの東西センターで、「アジアの地域構築:原則と優先課題」というテーマでスピーチを行ったクリントン国務長官は、「アメリカの将来は、アジア・太平洋地域と密接にかかわり、アジア・太平洋地域の将来はアメリカに依存している。」とまで言い切った。これを受けるように、メコン地域では、すでにアメリカがコミットした1億6千万ドルの水資源開発や気候変動の資金協力も動き出している。オバマ政権がアセアンやメコンなど地域協力にこだわるのは、ベトナム、ミャンマー、カンボジアなど二国間協力は、過去の戦争の後遺症や人権問題などから議会の抵抗があってまだまだ本格的に取り組めない状況にあるため、地域協力を対アジア協力のエントリーポイントとして見ているからである。 オバマ大統領は、ハワイで生まれ、幼少の頃から日系人と近所付き合いをして、そしてインドネシアの小学校で学んだ。就任2年目の今年は、オバマ大統領とその意を受けたクリントン国務長官は、アジア外交へ向き始めるだろう。また、開発援助の分野でも対アジア協力が注目される。 以上
山本愛一郎
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