米国通信

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このページではJICAアメリカ合衆国事務所長・山本愛一郎氏の「アメリカ援助事情」を掲載していきます。
 

2008年1月14日 

アメリカ援助事情 第4号 「軍事力 VS 民主主義 − アメリカ外交戦略の見直し」
 

「バングラデシュでもパキスタン同様、軍事政権への民衆の不満がイスラム過激派に よって利用され、暴力によるイスラム政治体制の確立へと向かっている。アメリカは この国の民主主義の回復のために仲介すべきだ。」今月はじめワシントンにあるハドソン研究所(共和党系の軍事外交専門のシンクタンク)の講演会でイスラムと民主主義を 研究する研究者が会場のアメリカ人外交関係者や政治学者に向かって熱く問いかけた。  

この講演会は、表向きは、昨年1月のバングラデシュにおける軍事クーデターから1年が たったのを契機として開催されたのだが、その背景には、9.11以降米国が主導してきた 「テロとの戦い」の効果を疑問視する意見が出ていることがある。米国がテロとの戦いを重視 する反面、パキスタンなどの軍事強権国家を容認したことが、市民の不満をあおり、かえってイスラム過激主義の台頭を招く結果になっているのではないかという反省である。  

今年は米国大統領選挙の年にあたるため、今ブッシュ政権の外交軍事戦略に関する評価 と見直しの議論が共和、民主両党からでており、その一環として当地のシンクタンクが様々な 議論を展開し、また報告書などを発表している。     

もう一方の戦略問題専門のシンクタンクである戦略国際問題研究所(CSIS)が最近 「スマートパワー委員会報告書」を発表した。朝日新聞昨年12月5日号でも紹介された同報告書は、 ジョセフ・ナイ ハーバード大学教授とリチャード・アーミテージ元国務副長官をヘッドとする20名の 超党派の専門家が執筆した報告書で、軍事力偏重の現ブッシュ政権を批判しつつ、次期政権では、 米国は軍事力(ハードパワー)と外交・政治・文化の力(ソフトパワー)を組みあわせた「スマートパワー」 (賢い力)を志向すべきだと説いている。  

「米国の国力は何人の敵を殺したかではなく、何人の味方を作るかで決まる。」という意味の言葉を 最近よく耳にする。これはアメリカの建国以来の外交方針からすればきわめて当たり前のことだ。ただ、 9.11以降この当たり前の姿をアメリカが見失ってしまっていたのだろう。  

今年11月には、アメリカの代44代目大統領が選ばれる。多くのアメリカ人は、共和党の大統領 になっても、民主党の大統領になっても、アメリカが世界に頼られ好かれる国になってほしいと願っている。

JICAアメリカ合衆国 事務所長 山本愛一郎
 

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「アメリカ援助事情」は、筆者のアメリカでの体験とナマの情報をもとに書いてい ます。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載 される場合は、事前に御一報願います。
 

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