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このページではJICAアメリカ合衆国事務所長・山本愛一郎氏の「アメリカ援助事情」を掲載していきます。


2008年2月13日 

アメリカ援助事情 第5号 「スマートパワーでアメリカは変わるか。 〜MCCの挑戦」 


2月に入ってアメリカの大統領選挙戦もいよいよ佳境に入ってきた。現段階は、共和、民主両党の支持者による各々の大統領候補者を指名するための予備選挙が全米各州で行われており、共和党はマケイン上院議員でほぼ決まり、民主党は、ヒラリー・クリントン上院議員とオバマ・バラク上院議員がつばぜり合いをしている。 民主党候補者が大統領に選ばれると、前者が女性大統領、後者が黒人系大統領となり、いずれもアメリカの歴史上初の出来事となるため、選挙戦はますます加熱している。

ところで、今回の選挙運動のキーワードは、変革(change)である。共和党、民主党問わずいずれの候補者もまるでブッシュ大統領がパンクしたタイヤか汚れたよだれかけのように取替えの必要性を訴えており(エコノミスト 誌)、ブッシュ大統領の政策を引き継ごうという発言は誰からもない。  

銀行や法律事務所などが立ち並ぶワシントンの目抜き通り、Kストリート(ワシントン市内の通りは南から北にCからWまでアルファベットで表示されているので、Kストリートはちょうど市の真ん中にあたる。)にCSIS (戦略国際問題研究所)のビルがある。CSISは、当地に本部を置く全米最大級の防衛・安全保障専門のシンクタンクで220名の研究員を擁している。この研究所が今注目されているのは、 次期政権への提言として、「スマートパワー」という新しいアメリカの戦略外交のコンセプトに関する報告書を発表したからだ。  

朝日新聞昨年12月5日号でも紹介された同報告書は、ジョセフ・ナイ ハーバード大学教授とリチャード・アーミテージ 元国務副長官をヘッドとする20名の超党派の専門家が執筆した報告書で、軍事力偏重の現ブッシュ政権を批判しつつ、次期政権では、米国は軍事力(ハードパワー)と外交・ 政治・文化の力(ソフトパワー)を組みあわせた「スマートパワー」(賢い力)を志向すべきだと説いている。   

現在CSISでは、「スマートパワースピーカー」と称して、スマートパワー戦略を実践に移している組織や団体のトップを招致して講演会を行っている。2月4日に呼ばれたのは、MCC(ミレニアム挑戦公社)のジョン・ダニロビッチ会長だ。  

MCCは、2002年のモントレー開発資金会議における各国のODA倍増への動きの中で、米国議会が、共和、民主両党の支持を受けて2004年に設立した公社で、「公正な統治」、「人への投資」、「経済の自由」の3つの観点から対象国の審査を行い、これを通過した国との間でコンパクトを締結し、援助を行う形を取る。現在審査を通過した有資格国は、ガーナ、モンゴル、ボリヴィアなど25カ国で、その他ウガンダ、インドネシア、パラグアイなど15カ国が敷居国と認定され、アメリカの技術協力を受けることにより、汚職対策など国内の改革を行い、将来の認定に向けて準備中だ。これまでMCCが各国にコミットした援助金額は実に30億ドルを越える。  

スマートパワースピーカーとして40分ほどMCCの事業概要を説明した同会長は、会場からの質問に、「ニカラグアのような反米意識の強い国ですら、MCCの資金で開発プロジェクトを行っている村へ行くと、村人が 『アメリカ万歳』と言ってくれる。嬉しいじゃないですか。」と答え、会場から笑いを誘った。  

MCCの特徴は、アメリカの国益や安全保障を強く意識する他のアメリカの援助機関とは違い、国益は前面に出さず、あくまで貧困削減、ミレニアム目標達成のための支援を打ちだし、そのための途上国の改革を支援している。 また、援助物資やサービスの調達についても、アンタイド方式(アメリカ企業に限らず国内及び国際入札によって 広く選定する方法)を取っており、国際援助社会では高く評価されている。また、たった300人のスタッフで30億ドル以上の援助を監理する能力は見上げたものだ。  

軍事力を背景にアメリカの国益を追求する時代は終わった。これからは、グロバールパートナーとしてアメリカの政治、外交、知識を軸に、アメリカの友を増やし、本当の意味でのアメリカの国益を長期的視野にたって確立していこうという流れが見え始めた。これが今多くのアメリカ人が新しい大統領に求めている変革の一つなのだ。

JICAアメリカ合衆国 事務所長 山本愛一郎
 

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*「アメリカ援助事情」は、筆者のアメリカでの体験とナマの情報をもとに書いてい ます。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載 される場合は、事前に御一報願います。
 
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