米国通信

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このページではJICAアメリカ合衆国事務所長・山本愛一郎氏の「アメリカ援助事情」を掲載していきます。


2008年4月14日 

アメリカ援助事情 第7号 「中国とどう付き合うか。―アメリカの戸惑いと警戒感」

最近アメリカでは、競争相手としての中国への関心が富に高まっている。米国メディアの海外報道では中国が圧倒的に多く、オリンピック、環境問題、チベット問題などで連日紙面を賑わせている。(ちなみにここ数ヶ月で日本が一面で報道されたのは相撲部屋のリンチ事件のみであった。)3月29日付のエコノミスト誌が発表した「アメリカ市民が脅威を感じている国」のランキングでは、中国が北朝鮮とイラクを抜いて、イランに次ぐ第二位に「躍進」した。

当地のシンクタンクでも中国を扱う研究が盛んになっており、先月も「新アメリカ財団」(アメリカの政治や外交に新しいアイデアや声を反映させるための革新的な研究を行う独立系シンクタンク。フランシス・フクヤマ氏などが理事を務める。)が、アメリカの外交関係者にとって衝撃的なレポートを発表した。同財団の上級研究員であるパラグ・カンナ氏の著作''The Second World: Empires and Influence in the New Global Order''だ。カンナ氏は、米軍の顧問を務めたこともある新進気鋭の地政学者だ。

同氏は、これからの世界は、アメリカ、欧州(EU)、中国の3つの超大国(G3)による覇権争いが繰り広げられ、東欧、中央アジア、ラ米、中近東、東アジアの各国は、これらの3つの超大国とどう付き合うか、あるいは3つの超大国がこれらの地域の国といかに戦略的関係を構築するかが今後の世界情勢を占うポイントとなると指摘する。この本を書くにあたって世界数十カ国に自らが滞在し、それぞれの国が、アメリカ、欧州、中国を今どう捉えているかを徹底的に分析した結果だ。

ワシントン市内の同財団で開催されたこの本の出版記念講演には、外交、政治学者など多数が出席し、質問が相次いだ。「ロシアや日本はなぜ大国には入らないのか。」という質問には、「ロシアは、経済規模が小さく、地域的な戦略しかもたないから、日本は、経済規模は大きいが世界戦略をもたないから、超大国とは認められない。中国は先進国ではないが、政治、経済、文化の全ての面で一定の世界戦略を持っているから、超大国として扱うべきだ。」ときっぱり答えた。

さらに共和党系のシンクタンクであるハドソン研究所では、天安門事件やベオグラードの中国大使館誤爆事件など、アメリカ中国の過去の安全保障上の危機を再分析し、将来の米中衝突の可能性とその対処策を研究しようとする試みも始まった。

開発援助学の大御所であるジョージタウン大学のランカスター教授の今年の研究テーマも「新興援助国としての中国」だ。かつてのジャパン・アズ・ナンバーワンの時代にアメリカで日本研究がもてはやされたのと同様、各界がこぞって中国研究に乗り出した感がある。しかし、アメリカ人にとって、共産主義国である現在の中国は日本以上に不可解で、警戒心を呼ぶようだ共和党の次期大統領候補のマケイン氏がアーリントンで行った外交演説でも、将来G8にブラジルとインドを入れるべきと言ったが、中国については不思議なことに一言も触れていない。

いずれにしても開発、安全保障、通貨、貿易など、あらゆる局面で中国といかに付き合っていくかがアメリカの時期政権の大きな課題となることは間違いないと思われる。   

JICAアメリカ合衆国 事務所長 山本愛一郎


ポトマック桜祭り
(写真提供:山本愛一郎氏)

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「アメリカ援助事情」は、筆者のアメリカでの体験とナマの情報をもとに書いてい ます。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載 される場合は、事前に御一報願います。
 

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