2008年6月9日 アメリカ援助事情 第9号 「大統領戦に沸くアメリカの外交開発シンクタンク」 6月に入って連日30度を超える暑さでワシントンはすっかり夏の様相だ。この夏を暑くするもう一つの要因は加熱する大統領選挙戦だ。民主党の指名が確実となったオバマ氏と共和党からすでに指名されたマケイン氏との選挙戦がこれからの焦点となるにつれ、ワシントンにあるシンクタンクの研究員たちの動きもあわただしくなってきた。 アメリカには、実に多くのシンクタンクがあり、それぞれが外交、安全保障、開発問題など得意な分野を持っている。政府の政策のあらゆる分野に関与している1916年に設立されたブルッキングス研究所、米州開発銀行の元副総裁が設立した開発専門の「グローバル開発センター」、国際関係専門で世界各国から200人以上の研究員を擁する「国際戦略研究所」などいずれもワシントンを本拠地としている。これらのシンクタンクは、それぞれの主義主張によって、共和党系、民主党系、あるいはそのどちらにも属さない独立系に分かれる。 アメリカのシンクタンクの研究員の中には、元政府の高官であったり、落選(退職)した議員がいて、政権交代の機に乗じて次期政権へ返り咲こうとする人たちも多い。アメリカでは、各省庁の約3000の幹部ポストが、政治任命といって大統領から指名される。これを狙って各研究者達が、報告書や本を出版し、自分の政策をアピールするのだ。 ブルッキングス研究所きってのアフリカ通で有名なスーザン・ライスさんは、早々とオバマ陣営の外交アドバイザーに就任、テレビの解説番組などでもうすでにオバマ候補の外交政策をアピールしている。ワシントンの当事務所の近くに民主党クリントン系のシンクタンク「アメリカの進歩ためのセンター」(Center for American Progress)がある。先月そこで援助政策を研究しているゲール・スミスさんに会ったとき聞いてみた。「大統領選挙では誰に投票しますか。」と。「絶対にオバマよ。彼には25年先を見るビジョンがあるわ。」とはっきり答えてくれた。クリントン系のシンクタンクなのにいいのかなと思ったが。 一般に、開発援助関係者には民主党支持者が多いが、共和党にも論客がいる。お洒落なレストンランやブティックなどが集まるデュポンサークルから3ブロックほど歩いたところに「ドイツ・マーシャル基金」の重厚な建物がある。これは1972年に戦後マーシャルプランに助けれられたお礼にとドイツの議会が資金を提供して設立されたシンクタンクで、主にアメリカと欧州との関係を研究している。このシンクタンクで働くジム・コルビー氏は、前共和党議員で、現在は開発援助におけるアメリカと欧州とのパートナシップに関するタスクフォースを立ち上げようとしている。先日同氏に会ったとき、このタスクフォースには日本の援助の経験もインプットして欲しいと頼まれた。彼はマケイン氏と同じアリゾナ州出身だ。 アメリカのシンクタンクの実に面白いのは、単に政策提言を行うだけではなく、提言した人が新しい政権の責任あるポストについて、それを実現することができることだ。勿論自分が支持した候補者が大統領に選ばれるかどうかはわからない。それでも彼らは自分の思いを実現してくれそうな候補者とともにこれからの選挙戦を戦っていくのだ。 JICAアメリカ合衆国事務所長 山本愛一郎
(写真提供:山本愛一郎氏) |
*「アメリカ援助事情」は、筆者のアメリカでの体験とナマの情報をもとに書いてい ます。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載 される場合は、事前に御一報願います。 |
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