2012年4月1日に実施されたミャンマー国会の補欠選挙の結果、アウンサン・スーチーさんの率いる「国民民主連盟」が圧勝し、スーチーさん自身も国会議員に返り咲いた。以来、欧米のミャンマーに対する見方が一転し、今ミャンマーは空前の投資、援助ブームだ。EUも昨年4月、ヤンゴンに代表部を開設し、2012年から2年間で1億5千万ユーロ(約180億円)の援助の再開を表明した。 他の援助国も足並みをそろえ、去る1月20日、首都ネピドーで開かれた初の支援国会議「ミャンマー開発協力フォーラム」には、世界各国から700人以上の政府、国際機関関係者が集い、効果的な開発協力を目指す「ネピドー合意」を採択して閉幕した。 しかし、このような現地での熱い動きとは裏腹に、ここブラッセルでは、これまでの同国への人権政策とのギャップの大きさに戸惑いの声も聞かれる。このような不安を受けて、先日、欧州委員会の本部から徒歩10分ほどのところにある「欧州アジア研究所」がミャンマーに関するセミナーを開催した。集まったのは、欧州委員会の外交、援助、貿易などの担当者、アジア学者、ブラッセル駐在のアジア各国の外交官たちだ。冒頭デンマークのミャンマー学者、クリステンセンさんのプレゼンから始まった。彼女は、2010年までのEUは、ミャンマーを人権への脅威と見なしてきたが、2012年の選挙以来ミャンマーは変貌を遂げたと評価しつつも、少数民族に対する弾圧問題など、今後のミャンマー政府の民主化の動きを注視しなければならないと主張した。 これに対して、アジア人学者からは、「もともとミャンマーの人権問題など、EUは話題にしなかった。イギリスと一部の北欧諸国が騒いでEUのアジェンダにしただけだ。欧米が制裁を課している間も、ミャンマーには中国、インドなどからの投資が盛んで、一度も孤立したことはない。孤立してしまったのは、むしろEUの方だ。」というミャンマー寄りの意見が出された。 一方欧州委員会の自由貿易交渉担当者からは、「EUが自由貿易協定を締結する国とは、包括的政治協定の締結が義務付けられており、その中で人権や民主主義の推進が規定される。ミャンマーの状況がさらに改善しなければ、EUとASEAN間の地域自由貿易協定への足かせになる。」と厳しい注文も寄せられた。 これまでEUは、人権を謳う割には、個別の国への対応となると、政治や経済利益が優先し、ダブルスタンダードだと批判されてきたのも事実だ。特にアラブの春以来EU 関係者は途上国の人権問題に敏感になっている。昨年5月に発表されたEUの新しい開発援助政策「変革のためのアジェンダ」では、これまでの貧困削減や持続的経済成長の柱に加えて、「人権、民主主義、法の支配の推進はEUの開発援助の重要な柱である。」と明記された。もともと援助を梃に途上国の人権問題を改善させることができるかどうかについては、これまで多くの国で試されてきたが、その効果には疑問が呈されている。ミャンマーに対する支援では、まさにこのEU援助の柱の強さが試される訳である。
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*「ブラッセル援助事情」は、筆者のブラッセルでの体験とナマの情報をもとに書いています。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載される場合は、事前に御一報願います。 |