ブラッセル通信


このページでは、現在JICA欧州連合首席駐在員である山本愛一郎氏の「ブラッセル援助事情」を掲載していきます。


2012年12月10日     


ブラッセル援助事情
No.9
「欧州援助のもう一つの流行〜援助代行」
 

No.5で欧州援助の流行、ブレンディングについて説明したが、今回はもう一つ流行になっている「援助代行」を紹介する。
    日本では、高齢者や忙しい人向けの家事代行業というのがあるが、欧州では、欧州委員会やEU加盟国の援助を他の国の援助機関が代行する援助代行システムが存在するのだ。

これは、正式には「援助委任」(delegated cooperation)と呼ばれ、2008年から欧州委員会が導入した制度なのだ。普通、二国間の援助は、ドナー国の援助機関が実施するのが常識だ。例えば日本政府の援助であれば、JICAが、アメリカ政府の援助であれば、「米国国際開発庁」(USAID)が担当する。

EUは、27の加盟国で構成されるが、援助に関しては、共有権限領域と呼ばれ、加盟国が独自に実施する他、欧州委員会もEUを代表して援助ができるようになっており、開発協力総局という、そのための組織と予算(年間約1兆円)を持っている。欧州委員会としては、膨大な援助予算を効率的に執行するためには、自分たちですべて行うのではなく、加盟国の援助機関が得意とする国や分野では、その機関に委任する方が効率的だと考えるのだ。

もちろんどの機関でもこの代行業ができるわけではない。欧州委員会の援助を代行するためには、欧州委員会の認定を受ける必要がある。認定申請ができる資格は、@EU加盟国の中央政府または連邦政府レベルの援助実施機関であること、A援助事業の全部を下請けに丸投げせずに実施する能力がある機関であること。の二つである。これにクリアすると、今度は、監査システム、内部統制、会計、調達の4項目に基づく外部監査法人による審査を受ける。通常審査には6−8か月かかり、これに合格すると「援助代行資格」(accreditation)が与えられる。

現在この資格を持つのは、42あるEU加盟国の援助機関の内、約20機関であるが、特に実績があるのは、ドイツとフランスだ。「ドイツ国際協力公社」(GIZ)は、得意分野の職業訓練、保健、水供給などの分野で計36件、150億円以上欧州委員会の援助代行業務を行っている。フランス国際開発庁(AFD)も得意な仏語圏アフリカなどで、計12件、70億円の援助代行を受注している。

欧州委員会の担当者によれば、援助代行は今後どんどん増やしたいそうだ。援助を他国の機関に代行させるという日本やアメリカでは考えられない常識破りのこのシステム、EU加盟国では案外自然に受け入られているようだ。国境を越えた人、モノ、カネの移動を自由にしてきたEUだ。援助の分野でもこれからますます相互乗り入れが進むかもしれない。援助代行システムのメリットは援助の効率性を高めるだけでなく、将来の援助統合に向けたエクササイズなのだ。

 JICA欧州連合首席駐在員  山本愛一郎

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「ブラッセル援助事情」は、筆者のブラッセルでの体験とナマの情報をもとに書いています。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載される場合は、事前に御一報願います。

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