前号では、緊急援助と開発援助のギャップに関するアムステルダムでの話し合いを紹介したが、それから一か月、今度は、当地ブラッセルでその解決のためのキーワードが提案された。 それは、「レジリエンス」という言葉だ。これも聞き慣れない英語だが、「外部からの衝撃に立ち向かう強靭性」と訳せばよいであろうか。実は、日本ではあまり知られていないが、2年前の東日本大震災の際、あれだけの甚大な被害を受けたにもかかわらず、被災者の人々が強い団結力と規律を維持しながら互いに助け合い、そして復興に向けて努力している姿に世界中が感動し、この「レジリエンス」という言葉を使いだしたのだ。 今月半ば、オックスファム(開発援助の政策提言や実施を行う国際NGO)が主催して、「Resilience and Power」というセミナーが開催された。そこには、欧州委員会で開発分野を担当する閣僚のピーバルグ氏と緊急・人道援助を担当する閣僚のギオルギエバ女史のほか、開発援助と緊急援助の担当者、そしてブラッセル在住の外交官など約200名が参加した。ワシントンの世界銀行から防災分野に造詣の深いインドラワティ専務理事(インドネシア人)も駆け付けた。開発援助と緊急援助の関係者が一堂に集う稀にみる機会だ。これだけでもギャップを埋めるよいチャンスだ。 援助における「レジリエンス」の意味するところは広範囲だ。一口に外部からの衝撃と言っても、干ばつによる食糧危機、紛争、難民、エイズなどの伝染病、自然災害、そして金融危機による失業なども入るかもしれない。これは担当する機関の立場によって異なる。EUの開発援助機関は、どちらかと言えばアフリカの食糧危機に対するレジリエンスに焦点を当てているが、世銀などはアジアにおける防災もレジリエンスの重点テーマにあげている。 ただ共通して言えることは、レジリエンスの構築ためには、緊急援助と開発援助を継ぎ目なく行わなければならないということだ。これには会議の参加者の中で異論はなかった。たとえば、災害が発生したときは、人命救助や物資支援など緊急援助がまず必要だが、中長期的には、防災のための住民の意識改革や、防災を念頭においた構造物やインフラの建設が必要になる。これらはすべて開発援助の領域である。要は、緊急援助を通じて得られた教訓や提言が開発援助にうまく引き継がれることが重要なのだ。これがギャップを埋める方策だ。 最近、英国のシンクタンクが、このレジリエンスという概念に注目し、防災や減災をつうじて、災害による途上国の富の喪失を防ごうという提言を行った。また英国国際開発省にもレジリエンスを担当する部が新設された。地震も台風もないイギリスがなぜ?という疑問は浮かぶが、災害におけるレジリエンスを重視している日本にとってよきパートナーになるかもしれない。 レジリエンスの対象を狭くしぼる必要はない。それぞれの国の得意な分野で協力すればよいのだ。東日本大震災で見せた日本のレジリエンスを今度は世界に広める番だ。
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*「ブラッセル援助事情」は、筆者のブラッセルでの体験とナマの情報をもとに書いています。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載される場合は、事前に御一報願います。 |