ブラッセル援助事情No.15「貿易かセキュリティーか 〜国境管理と援助」
比較的長かった今年のベルギーの夏も終わり、ブラッセルの街もすっかり秋めいてきた。EUの関係機関が立ち並ぶシューマン駅(EUの生みの親であるフランスのロベール・シューマン外相に因んで名前が付けられた。)の近くには早くもコート姿の人も見られる。同駅から歩いて5分のところに、EU専用の会議場ボルシェット・センター(ルクセンブルグの欧州委員アルベール・ボルシェット氏の名が付けられている。)がある。 国と国の境には、色々なヒトやモノが集まる。人間の場合は、不法移民や犯罪者、伝染病を持った人をチェックする必要があるし、モノの場合は、武器や密輸品などに目を光らせる必要がある。その制度や規則、手続きは国よって異なるため、国境では、出国と入国の際に2度同じような審査や検査を受けなければならない。また、同じ国の中でも、入国管理を担当する役所と関税を処理する役所が異なるため、国境を通過する際、煩雑な手続きを行わなければならず、時間もかかる。アフリカでは、行政処理能力が低いため、国境でのトラックの待ち時間が5日もかかるケースがあるという。 貿易促進や経済開発を重視する立場からは、国境におけるこれらの手続きを簡素化、統合し、時間とコストを節約し、域内貿易や国際貿易を促進しようとする動きが顕著だ。アフリカでは、国境を接する二つの国の手続きを調整し、一か所で行えるようにする施設「OSBP;ワン・ストップ・ボーダー・ポスト」の建設が進んでいる。日本も、ザンビア、ジンバブエ、タンザニア、ケニア、ウガンダ、ルワンダなど14か所で施設の建設や人材育成で協力している。特にイギリス政府と共同で2009年より支援してきたザンビアとジンバブエの国境のチルンドOSBPは成功事例とされている。 しかし、これに難色を示すのは、国境で、不法入国者や麻薬犯罪などの取り締まりにあたる治安当局者達だ。会議に参加していたメキシコ外務省の関係者は、ティファナ(メキシコ側)とサン・ディエゴ(アメリカ側)との通商が盛んになると、それに伴って麻薬や不法な商品の流通も増え、対応に困っていることを訴えた。フランス内務相の入国管理担当者も、ODAでアフリカなどからフランスに招聘される留学生や技術者の動向に注意しているという。また、移民の管理を担当しているIOM(国際移住機構)の関係者からは、ドナーの関心が入国管理より国境貿易の方ばかりに向くため、税関がコンピューー化されているのに、入国管理官は相変わらず手書きで書類を作っていると窮状を訴えた。 このように国境を通過するヒトとモノを開発と規制という二つの観点から総合的の管理しようというのがIBMだが、この分野での国際協力はまだまだ途に就いたばかりだ。開発、貿易、関税、犯罪防止、移民管理など異なった視点から、異なった分野の専門家が互いに協力しなければならない。今年の12月バリで開催されるWTO閣僚会議でも、IBMが中心議題になるそうだ。 JICA欧州連合首席駐在員 山本愛一郎 |
*「ブラッセル援助事情」は、筆者のブラッセルでの体験とナマの情報をもとに書いています。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載される場合は、事前に御一報願います。 |