ブラッセル援助事情No.19
「野に咲く花はどこへ行った〜欧州で消えゆくワシントン・コンセンサス」 「野に咲く花はどこへ行った」は、1960年代、PPMの大ヒット曲だが、今欧州では、「ワシントン・コンセンサスはどこへ行った」と口ずさみたくなることが起きている。 「ワシントン・コンセンサス」とは、新古典派経済学の理論を共通の基盤として、米政府やIMF、世界銀行などの国際機関が発展途上国へ勧告する政策の総称で、米財務省や上記の国際機関、さらに著名なシンクタンクが米国の首都にあることから名付けられた。市場原理を重視するところに特徴がある。貿易、投資の自由化、公的部門の民営化、政府介入を極小化すること、通貨危機に対しては財政緊縮、金融引き締めを提言する。( 石見徹 東京大学教授 ) 筆者も1980年代、JICAでケニアの輸出振興プロジェクトを担当していたころ、ナイロビの世銀事務所に呼びつけられ、「輸出は、市場の規制を取り払い、為替の自由化を行い、市場原理に任せれば自然に増えるもので、JICAなどの公的援助機関が介入するのはけしからん。」と言われた苦い思い出がある。
このように市場原理至上主義の立場からは、公的資金を使って民間の活動を支援することはタブーと考えられてきたのだが、近年EUを中心とした欧州の援助の考え方は、これとは逆で、民間資金にODAなどの公的資金を加えて、より多くの資金を途上国開発のために調達すべきという、所謂「ブレンディング」というコンセプトが流行している。
EU加盟国もイギリス等いくつかの国を除き、フランスやドイツなど多くの国がブレンディング賛成論者だ。特にドイツやフランスは、自国内に巨大な開発金融機関を持っており、これらの機関にEUのもつ公的資金が流れることによって、より大きな案件に融資ができるうまみがある。また、これによって、欧州の民間企業が有利にプロジェクトを受注することができる。 JICA欧州連合首席駐在員 山本愛一郎 |
*「ブラッセル援助事情」は、筆者のブラッセルでの体験とナマの情報をもとに書いています。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載される場合は、事前に御一報願います。 |