ブラッセル援助事情No.20 「2つの連合、1つのビジョン〜新時代のEUアフリカ関係」 ヨーロッパとアフリカの関係は深くて、また複雑である。現在のアフリカ53か国のほとんどは、かつてはイギリス、フランス、ポルトガル、ベルギーなどヨーロッパの植民地であった。 その結果、ヨーロッパ人は、植民地からの搾取、奴隷問題、人種差別などの負の遺産(colonial baggage)を背負い、一方アフリカ人もヨーロッパに対する不信と憧れという2つの相反する感情を持っているように見受けられる。 このような欧州とアフリカの関係に今変化を起こそうという動きがある。2014年4月ブラッセルで開催される「第4回EUアフリカサミット」だ。アフリカに関する大きな国際会議は、今年6月、日本政府が主催して横浜で開催された「第5回東京アフリカ開発会議」(TICAD X)以来だ。この会議のスローガンは、「2つの連合、1つのビジョン」(2 UNIONS, 1 VISION)で、これまでの援助をする側と受ける側の関係を転換し、ヨーロッパとアフリカが対等なパートナー関係を築くことを目指している。 テーマとしては、2007年リスボンで開催された「第2回EUアフリカサミット」で採択された「アフリカEU共同戦略」(JAES)が掲げる8つのパートナーシップ:@平和と安定 A民主的ガバナンスと人権 B貿易、地域統合、インフラ Cミレニアム開発目標(MDGs) Dエネルギー E気候変動と環境 F移民と雇用 G科学技術、宇宙開発 が基本となるが、そのうち、どれを重点分野にするかで、すでに双方に亀裂が生じている。EU側は、民主主義や人権、平和と安定を重視するが、アフリカ側は、貿易や投資そして移民の受け入れだ。 来年のサミットまであと4か月。時間がない。EU側としては、アフリカ諸国や関係機関と一刻も早く対話を行い、重点テーマの絞り込みを行わなければならない。このため、サミットを主催する欧州委員会と欧州対外行動庁(EUの外務省のような組織)が、「アフリカEU共同戦略サポート会議」を結成した。EU加盟国、アフリカ諸国、援助関係機関などから意見を聴く会だ。筆者も会のメンバーに選ばれたので、昨日、テーマEの気候変動に関する会議に参加した。 会議の冒頭、ヘデガルド気候変動担当欧州委員が、アフリカも「共通だが差異ある責任」の原則に従い、それなりの責任と負担を負ってもらわなければならない。」と強く主張したのに対して、「気候変動対策の名の下でミレニアム開発目標に対する欧州の責任が薄められることがあってはならない。」(ンコシ南アフリカEU代表部大使)と、早くも意見の食い違いが見られた。その他、移民の問題では、「欧州や日本は急速に人口が高齢化しており、やがて世界の若者の50パーセントがアフリカ人になる。今のうちに、アフリカの若者の教育水準を上げて、将来は移民として合法的に受け入れなければならない時代が来る。」(ヴィネス英国王立国際問題研究所アフリカ部長)と急進的な意見を言う人もいたが、緊縮財政で、失業率が増えている今の欧州では、アフリカからの移民受け入れは禁句だ。 このように、EUとアフリカの対等なパートナーシップと口では言っても、なかなか具体的な姿が見えてこない。中には、「アフリカは、中国、インド、ブラジルなど新興国と対等な関係を構築しつつあり、欧州とのパートナーシップなどはもう意味がない。」 (カルボン・グラスゴー大学教授)と言い切る学者もいる。 さらに今、EUとアフリカの関係をこじらせている原因が2つある。まず 、国際刑事裁判所(ICC)の訴追免除の問題だ。今年10月にアフリカ連合(AU)は、ICCにおける現役政府首脳の訴追免除を要請、同時にケニアのウフル・ケニヤッタ大統領とウィリアム・ルト副大統領に関する裁判手続きの延期を求めた。これは、EUとしては、到底受け入れられない。そんなことをしたら、アフリカの腐敗した政権が永久に続くと考えるからだ。問題は、このことによって、EUとAUの関係がギクシャクすることだ。EUは、AUの「兄貴分」だと自負しており、AUに対してアフリカ加盟国の調整役を期待しているからだ。冒頭紹介したサミットのスローガンである「2つの連合、1つのビジョン」もその表れだ。 もう1つは、経済連携協定(EPA)の問題だ。現在EUは、日本ともEPAの交渉を行っているが、アフリカ諸国とは、交渉が難航している。市場開放により、安価な欧州の農産品が入ってくることへのアフリカ諸国の警戒感がある。 とは言っても、来年4月には、EUとアフリカの首脳がブラッセルで一堂に会し、新しいパートナーシップに向けた第一歩を踏み出さなければならない。そのためには、EUは、先の「東京アフリカ開発会議」を成功させた日本政府の知恵も借りるべきだろう。 JICA欧州連合首席駐在員 山本愛一郎 |
*「ブラッセル援助事情」は、筆者のブラッセルでの体験とナマの情報をもとに書いています。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載される場合は、事前に御一報願います。 |