ブラッセル通信


このページでは、現在JICA欧州連合首席駐在員である山本愛一郎氏の「ブラッセル援助事情」を掲載していきます。


2012年9月11日  

  ブラッセル援助事情 No.3 「どうなる尖閣、竹島〜領土問題のヨーロッパ式解決法」
              

 ベルギーの首都ブラッセルは、人口100万人ほどの欧州では中規模の都市であるが、EUがその本部機関を置いていることから欧州の顔とも言われる。そしてもう一つの顔がある。それは、「欧州のシンクタンク銀座」としての機能だ。ここには、大小多数のシンクタンクがその本部を置いており、筆者の所属するFriends of Europeを含め、多くはEUの各種政策を調査研究し、セミナーやカンフェレンスを通じて、EUの政策担当者や議員達に働きかけるという手法がとられる。EUは、よく東と南に向いていると言われる。それは、彼らの関心が、将来の加盟候補国である中欧やコーカサス、トルコなどの東方面と、北アフリカ、サブサハラアフリカなど歴史的に関係が深い南方面を意味する。アジアへの関心は比較的薄いのが実情だ。したがって、シンクタンクの研究も欧州やアフリカに目が行きがちだ。

  しかし、小さいながらもアジア政策を研究しているシンクタンクもある。元イギリスの外交官だったキャメロン氏が主宰する「EUアジアセンター」だ。「欧州が、東と南に向いている間に、アジアでは、アメリカと中国の二大大国がぶつかりあっている。欧州とEUは、非軍事的分野でもっとアジアに関与し、よきバランサーとなるべき」というのが同氏の持論だ。自宅で奥さんの入れてくれたイングリッシュティーで喉をうるわす筆者に熱く語ってくれた。

 折しも、日本では、竹島、尖閣をめぐる領土問題がクローズアップされているこの時期をねらって「東アジア〜紛争か協力か」というテーマのセミナーが同センター主催で開催された。会場となった欧州委員会本部近くのホテルには、EUのアジア政策関係者、学者、ブラッセル駐在の日本、中国、台湾、アメリカなどの外交官約50名が集まった。

 セミナーは、日本から参加した国際戦略研究所の田中均氏の基調講演から始まった。同氏の主張は、「中国、韓国とも冷静になり、領土問題をなるべくマージナライズし、それ以上に重要な経済や環境、防災などの分野で協力しあうべき」というものだ。それに対して台湾人参加者からは、「尖閣問題は、台湾も関心がある。日本は、日米安保など新しい話を持ち出さないで、歴史問題だと認識すべき。」と反論。田中氏は、「歴史問題は、村山談話ではっきりと日本が謝罪している。我々はもっと未来志向で考えるべきだ。」と回答した。

 収まらないのは、中国人参加者だ。教科書問題を取り上げた。そこで、パネリストを務めていた欧州の学者から、「EUは、かつての戦争の敵味方が一緒になって作った組織だ。かつてはナチスドイツに関する教科書問題があった。我々は、教科書委員会を作って皆で話し合って解決した。EUには、武力や脅しという手段は永久に存在しない。」という発言に一同はうなずいた。議論は、領土問題に限らず、経済や貿易など幅広い分野に及んだ。全体としては、EU関係者は、東アジアにもっと関心を向けるべき、アジア関係者は、アジアの平和と安定のためにEUからもっと知恵を借りるべきとの印象をもったようだ。

  EUという超国家的組織がある欧州とアジアでは、紛争の解決方法に大きな差がでる。
 アジアにも
EUのような組織があればよいとつくづく考えさせられた。

 終了の挨拶に立ったフレーザー氏は、イギリス人らしいジョークを交えてこう言った。「みなさん、領土問題のよい解決法をご存じてすか。アメリカはナポレオンからルイジアナ州を買いました。オークションをすればよいのです。そうすれは尖閣は日本も中国も買わないでしょう。たぶん台湾が買うかもしれませんね。」一同大爆笑でセミナーは閉会した。

 JICA欧州連合首席駐在員  山本愛一郎
 


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「ブラッセル援助事情」は、筆者のブラッセルでの体験とナマの情報をもとに書いています。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載される場合は、事前に御一報願います。

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