ブラッセル通信


このページでは、現在JICA欧州連合首席駐在員である山本愛一郎氏の「ブラッセル援助事情」を掲載していきます。


2012年10月7日     

ブラッセル援助事情No.5 「援助の欧州ブレンド」
 

 ブレンドと言えば、紅茶かコーヒーを思い浮かべるが、今ブラッセルでは、援助のブレンディングが流行している。複数の援助機関がお互いの資金や技術を組み合わせて、より規模の大きな「旨味」のある援助プロジェクトを作り上げるのだ。

 途上国援助ODAには、大きく分けて二つの方法がある。ひとつはグラント(返済義務を課さない資金供与)、もう一つは、資金貸付(ローン)だ。ただし、ローンの場合は、OECD開発委員会が定めた一定の基準に基づき、市中金利より低利で返済条件が緩やかなローンでなければならない。JICAが実施する円借款などはこのカテゴリーに入る。市中金利で貸し付ける民間銀行の場合は、例え融資先が途上国であっても、ODAには当てはまらない。

 そこで、EUが考えだしたのは、ドイツ開発銀行、フランス開発銀行、欧州投資銀行(ルクセンブルグ)など途上国への開発融資を行っている銀行に対して、EUがグラントという形で利子補てんし、結果として、途上国政府が借りやすい条件にするという方法だ。例えば、フランス開発銀行が、ケニアの送電線網建設の費用100億円を金利5%で貸し付けるとしよう。そこに、EUが利子補てんとして毎年4億円のグラントを供与すると、実質金利は1%となり、借手は借りやすくなり、貸手も貸しやすくなる。

 アフリカのインフラ案件専門に利子補てんや技術支援などを行うため、2007年に設立された「EUアフリカインフラ基金」は、EU加盟国の開発金融機関が実施するインフラ分野の融資案件に対して、設立以来これまで393億円(1ユーロ100円換算)を支出し、20件以上の大型プロジェクトを実施している。この基金のレベレージ効果は10-11倍と言われているので、金融機関から貸し付けられた資金も含めると、実際には4000億円以上の資金が動員された計算になる。

 このように「援助の欧州ブレンド」は、少ないODA資金を呼び水にして、官民の資金融資を引出し、より大きな援助案件を実施する、いわば打ち出の小槌のような方法で、国内に大きな開発融資銀行を持つ、ドイツ、フランス、ルクセンブルグなどからは大いに歓迎されている。

 しかし、問題がないわけではない。このようなブレンディングが増えると、民間企業や民間金融機関の関心のある大規模なインフラや資源案件に援助資金が使われ、援助本来の目的である教育や保健など貧困対策向けの援助が減るのではないかという懸念だ。そもそもブレンディングに対する需要の高まりの背景には、アフリカの資源開発で、国家の後押しを受ける中国企業に対して劣勢に回っている欧州企業の焦りがある。したがって、そのような心配はもっともなことである。この問題を先日筆者が、ストレートに欧州委員会開発協力副総局長のルディシャウザー氏にぶつけてみたところ、ブレンド推進派の同氏は、「ブレンドによって多くの民間資金が活用できるので、それで浮いたODA予算を貧困削減に回せるので問題なし。」という回答だったが、若干詭弁のよう感じもする。

 そしてもう一つ、金融専門家からは、ブレンディングにより、本来採算性のない案件にまで融資が行われ、将来不良債権が膨らみ、1980年代のような債務危機が再び途上国に起こらないかという指摘もある。これは、歴史が証明しているので説得性がある。

 いずれにしても、現在流行の「援助の欧州ブレンド」、旨味も苦味もありそうだ。しばらく味身をする必要があるだろう。

                                               JICA欧州連合首席駐在員  山本愛一郎

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「ブラッセル援助事情」は、筆者のブラッセルでの体験とナマの情報をもとに書いています。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載される場合は、事前に御一報願います。

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