ブラッセル通信


このページでは、現在JICA欧州連合首席駐在員である山本愛一郎氏の「ブラッセル援助事情」を掲載していきます。


2012年11月8日     


ブラッセル援助事情
No.7 「オバマ米大統領再選 〜期待と不安がまじる欧州の反応」
 

 アメリカのオバマ大統領が再選された。欧州各紙の8日の朝刊は、一斉に一面トップでこのニュースを伝えた。「オバマ氏の勝利でアメリカの変革はさらに進むだろう。」(スペイン、エルパイス紙)、「オバマ氏の当選でこれから素晴らしい日が来るだろう。」(フランス、ルモンド紙)とどこも好意的だ。しかし、オバマ支持で有名なフィナンシャル・タイムズ紙は、今回は少しトーンを落とし、「オバマは勝った。しかしこれから新しい戦いが始まる。」と報じ、地元ベルギーのフラマン語紙も「大きな喜びと大きな苦難」という見出しを付けた。これからさらに深まるであろうアメリカ国内の党派対立と、年末に訪れるかもしれない「財政の崖」(増税と財政削減が同時に発生する状況)、そしてイラン、シリアなど山積する難しい国際問題に対するアメリカの取組を心配する論調だ。4年前のオバマ氏初当選の際の熱狂的なムードは今のヨーロッパには感じられない。

 アメリカは、欧州からの移民が作った国だ。だからヨーロッパ人のアメリカに対する思い入れは強い。特に第二次大戦とその後の冷戦時代にアメリカの軍事力と経済力に助けられたヨーロッパにとって、アメリカは「恩人」だ。ブッシュ大統領時代にアメリカに対して幻滅したヨーロッパ人は、国際協調を重んじ、イラク撤兵やアフガニスタンからの段階的撤退を決定したオバマ大統領への支持は絶大だ。「ドイツ・マーシャル財団」(ワシントンにある米・欧州関係の研究を行うシンクタンクで、大戦後の欧州復興のためにアメリカが設立したマーシャル基金への恩返しとして、ドイツが資金を拠出し、ワシントンに設立された。)の世論調査によると、「もし選挙権があればオバマ氏かロムニー氏かどちらに投票するか。」というアンケートに対して、オバマ氏と答えた人は、欧州12か国平均で75%、ロムニー氏は8%だ。オバマ氏に投票すると答えた人は、フランスでは、89%、ドイツでは、87%とさらに高水準だ。欧州が選挙区だったらオバマ氏はもっと楽に当選したであろう。

オバマ氏の初当選の4年前、ヨーロッパ人は、それまでのブッシュ大統領時代に単独行動主義を取ったアメリカがその路線を変え、ヨーロッパを第一のパートナーとして選ぶことを期待した。しかし、オバマ大統領は、路線は変更したが、その行先はヨーロッパではなく、アジアだった。その生い立ちの影響もあるのか、オバマ氏は、アジア重視の外交を展開したのだ。首脳レベルの個人的な付き合いでも、オバマ氏が欧州首脳と特に仲良くしているという報道に接することはない。「オバマ大統領の気を引く唯一の方法は、問題を起こす国になることだ。」(欧州外交評議会)という皮肉な見方も出るほど、ヨーロッパにはアメリカ外交に対する不満が燻っている。オバマ氏個人への高い支持率とは裏腹の関係だ。

一方、ヨーロッパ側にも問題はある。冷戦が終結したため、それ以前のようにアメリカの軍事力に頼る必要がなくなったことや、アメリカの金融危機の影響で、ヨーロッパの対米輸出が減ったことなどから、ヨーロッパがアメリカを以前ほど必要としなくなったのだ。また、欧州自身の金融危機や財政危機への対応で、アメリカとの外交関係を強化する余裕もないのだという見方もある。

いずれにしても、中国を含むアジアの台頭により、二つの海に面するアメリカの目と顔が、大西洋から太平洋に向きつつある今の時代に、EUを中心としたヨーロッパが国際社会でどのような位置を目指すのかが今一つ定まらないのが根底にあるように見える。今回のオバマ氏再選へのヨーロッパ人の反応を見ていると、そんな気がしてくる。

                                                                                                          JICA欧州連合首席駐在員  山本愛一郎

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「ブラッセル援助事情」は、筆者のブラッセルでの体験とナマの情報をもとに書いています。JICAの組織としての意見ではありません。部分的引用は御自由ですが、全文を出版物等に掲載される場合は、事前に御一報願います。

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