CDF/PRSP
PRSPはなぜ絶大な影響をもつのか?
途上国の援助資金へのアクセスの可否を決定。 |
PRSPは貧困国支援の「切り札」として主流化しつつあります。
1999年1月にウォルフェンソン世銀総裁は「包括的な開発フレームワーク(CDF)」を提唱し、途上国の主体性(オーナーシップ)および多様な開発アクターの参加(パートナーシップ)を二本柱とする、政策策定過程に関する新しいイニシャティブを導入しました。「貧困削減戦略ペーパー(PRSP)」はCDFアプローチに基づき、途上国自らが策定する貧困削減のための具体的な行動計画です(タイムスパンは約3年)。
99年末からの導入後わずか2年で、PRSPは全ての最貧国の経済政策に絶大な影響を及ぼしつつあります。そして、PRSPは世銀の最貧国支援の「切り札」かつ世界の潮流になっており、こういった基本的方向は、2002年1月中旬に世銀イニシャティブのもとワシントンで開催されたPRSP包括レビュー・セミナーにおいても確認されたとおりです。この事態は、80年代を席巻した世銀の「構造調整アプローチ」に匹敵する出来事とも言えます。以降、世銀・IMF合同開発委員会(年2回開催)などにおいて、PRSP実施状況のレビューが報告されています。
紀谷昌彦「貧困削減戦略国際会議報告」(包括レビューセミナー報告、2002年1月)
PRSPは国連「ミレニウム開発目標」(MDGs)が掲げる貧困削減目標の達成手段としても注目を集めています。
さらに注目すべきなのは、PRSPと国連「ミレニウム開発目標」(UN
Millennium Development Goals−MDGs)との結びつき強化の動きです。ミレニウム開発目標(MDGs)は2000年9月に国連サミットで採択されました。2015年までに、1990年との比較で@世界の最貧困層の人口比率の半減、A教育・ジェンダー・保健医療・HIV/AIDSの分野での改善、B環境保全・持続可能な開発の推進、を開発の至上目標として掲げるとともに、その達成のためにC全ての開発パートナーが開発援助資金の増加・市場アクセスの拡大・債務問題対応に取組むよう促しています。MDGsは、90年代に国連が主催した数々の会議での合意目標を包括した「国際開発ターゲット」(International
Development Targets−IDTs)をふまえたものです。
今や、PRSPはMDGs達成の手段となりつつあり、PRSPが設定する指標とMDGsの中間指標との整合性を図り、MDGsを国別に細分化(”localize”)した指標をつくる試みも始まっています。なお、MDGs達成には、毎年合計400〜600億ドル(世銀推計)、あるいは500億ドル(国連推計)程度の追加資金が必要と見積もられており、これは現行の援助資金フローを倍増しODAの対GNP比率を0.5%に引き上げることを示唆します。世銀ウォルフェンソン総裁は、3月18日からの「国連開発資金国際会議」(於モンテレー、メキシコ)を前に、貧困削減が開発の最重要課題であることを強調し、ミレニウム開発目標達成に向けた先進国の資金面の協力を訴えました。
ウォルフェンソン世銀総裁「A Partnership for Development and Peace」(2002年3月6日)
PRSPアプローチには評価すべき点もありますが克服すべき課題も多く、日本としての取組みを早急に考える必要があります。
このように、貧困削減を至上目標として、全ての開発努力をMDGsの達成に収斂させることが現在の国際的な開発潮流になっています。各途上国はMDGsと整合的な指標を定め、PRSPアプローチに基づく行動計画を作成することを求められ、各ドナーにおいては協調枠組の中での援助資金コミットや手続き調和化への要請が強くなりつつあります。
確かに、構造調整の反省に基づき、より参加型で途上国のオーナーシップを尊重するPRSPアプローチは、新しい戦略策定の手続きとして前向きに評価できる点も少なくありません。他方、その戦略や政策の質、実施に際しての諸制約などの面で克服すべき課題も多々あるのも事実です。なお、2002年1月にワシントンで開催されたPRSP経験の包括的レビューセミナーでは、今後の課題として、@プライオリティ化の必要性、A成長の視点の強化、B参加の制度化、C他政策・開発計画との整合性、D予算等のシステム改善、E評価の強化、Fドナー間の共同歩調などが指摘されました。日本はこのうちAの「成長の視点」を強く打ち出しました。
PRSPはサブサハラ・アフリカのみならず、わが国の関与の深いアジア途上国でも急速に展開しつつあります。課題を更に掘り下げ、東アジアを中心としたわが国の開発経験も踏まえ、オール・ジャパンによる取組みを強化していくことが必要です。その際には、PRSPに関わる基本問題の検討(総論レベル)と、PRSPプロセスへの積極的関与を通じた国別開発戦略に関わる具体的な提案(各論レベル)の双方が重要になります。
日本においてもCDF/PRSPへの本格的な取組みが始まっています。
実際に、日本の開発関係者においても問題意識を共有する研究者や実務家が増えており、PRSP研究や情報共有活動が広がりつつあります。最近の主な動きを紹介します。
基本問題の検討
JICA国際協力総合研修所「貧困削減に関する基礎研究」報告書、2001年4月。
「PRSPと日本の貢献」に関する勉強会(柳原透・拓殖大学教授他): PRSPに対する日本の貢献のあり方(プロセスへの関与の仕方、日本の開発・貧困削減・開発援助の経験等の反映)を検討することを目的として、研究者や実務者が勉強会を行っています。(JICA国総研が事務局、2002年3月18日第1回開催。年内まで実施予定。)なお、勉強会の成果の一部は国際開発学会全国大会のセッション(2002年12月1日)で報告されました。詳細はこちら
ワシントンDC開発フォーラム: ワシントンDCの経済協力関係者有志により、CDF/PRSP、MDGs、援助協調について活発な意見交換や問題提起が行われています。
PRSPに関連する議事録
2003年4月2日 | 「ミレニアム開発目標(MDGs)達成に向けて民間投資を如何に促進すべきか−MIGAでの経験から考える−」 |
多数国間投資保証機関(MIGA)長官 井川 紀道 氏 |
2002年7月31日 | 「PRSPプロセスの改善に向けて −本フォーラム(ワシントンDCフォーラム)での議論を総括する-」(Wordファイル) | IMF財政局 緒方健太郎氏 |
2002年7月3日 | 「途上国への知的貢献に向けて −日本と世銀のパートナーシップを考えるー」(Wordファイル) | 世界銀行副総裁/資源動員・協調融資担当 日下部元雄氏 |
2002年2月11日 | 「CDF・PRSPを超えて −開発戦略における日本の付加価値-」(Wordファイル) | GDNシニアエコノミスト 朽木昭文氏 世界銀行アフリカ局 豊島俊弘氏 |
国別開発戦略研究
「バングラデシュ開発援助ネットワーク」と「バングラデシュ・モデル」: 日本は世銀やADBとともにバングラデシュにおける主要ドナーですが、オールジャパンとして同国における効果的援助に包括的に取組む体制が必要とされていました。特に同国では、20余のパートナーシップ・グループにより援助協調が活発に行われており、またIDA融資対象国としてPRSP策定プロセスが始まったことから(2002年4月にI-PRSPドラフト作成)、かかる体制の構築が急務とされました。このような問題意識のもと、東京では「バングラデシュ開発援助ネットワーク」、現地では「バングラデシュ・モデル」と通称されるオールジャパン体制づくりが進んでいます。詳細はこちら
「ベトナムPRSP研究」: GRIPS開発フォーラムの研究テーマの1つ。本研究は、強いオーナーシップに基づき、成長志向の「包括的・貧困削減戦略書(CPRGS)」(ベトナム版PRSP)を策定したベトナムの事例を研究し、国際的に発信すると共に、他国への適用可能性を検討することを目的としています。詳細はこちら
タンザニア援助協調・農業開発戦略策定: 援助協調が活発でPRSPの先行国であるタンザニアにおいて、日本が農業セクターのリードドナーとなり戦略作りを支援しています。援助協調プロセスを支援するものとして、JICAの開発調査としては初めての試みで注目されます。この開発調査はJICAからの委託を受けて(財)国際開発センター(IDCJ)が実施しています。詳細はこちら